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静電気対策におけるアースとは?基礎知識や静電気対策の方法を分かりやすく解説
製品豆知識2024/07/10
アースは日常生活にも用いられる有効な静電気対策です。精密機器を扱う現場や製品の生産ラインなど、静電気除去が必要な環境ではアースが欠かせません。
この記事では、アースとは何なのか、その役割や必要性を分かりやすく解説します。静電気対策の具体例や、アースを取る上での注意点などの情報もあわせて紹介します。
アースに関する基礎知識
工場や生産ラインにおいて不可欠な静電気対策。代表的な静電気対策の一つに「アース」があります。まずは、アースとは何なのか、その役割や必要性を理解するところから始めましょう。
そもそも「アース」とは
電気分野において、アースは「接地」という意味を持ちます。帯電する可能性のある物体を大地(地球)につなぐこと、またはその装置を指します。例えば、導体と大地をアース線で接続すると、導体に発生した静電気はアース線を通じて瞬時に大地へ逃げていきます。広大な大地は電気的に安定した導体であり、電気を逃がす場所として適しています。
アースは日常生活の中でも登場する静電気対策です。身近なところでいうと、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジといった使用電圧の高い機器にアース線が付いています。また、セルフ式ガソリンスタンドなどに設置されている静電気除去パッドも、アースの原理を用いたものです。静電気除去パッドはアースにつながっており、タッチすると体に溜まった静電気を逃がす仕組みになっています。
アースの役割
アースの役割は、物体に発生した静電気を大地に逃がすことです。帯電を防ぎ、静電気のない、電気的に安定した状態にします。端的に言うと、「静電気の発生を防いで、事故やトラブルを未然に防止する」これがアースの重要な役割です。
静電気は物を作る過程で様々な影響を及ぼします。品質や安全性を確保すべき環境では静電気対策が必須であり、重要な課題となります。
アースを怠るとどうなる?
アースをしないと物体に静電気が溜まり、事故やトラブルにつながるおそれがあります。静電気を放置することでどのような問題が発生するのか、工場や製造現場での事例を挙げて解説します。
トラブル1.静電破壊(ESD破壊)
半導体の集積回路など、精密な電子部品を扱う現場で問題となるのが、静電破壊(ESD破壊)です。静電破壊とは、静電気によって電子部品が破壊されることをいいます。帯電した人体や物体からの放電によって、多くの電流が回路上に流れ込み、発生した熱が電子部品を破壊します。
電子部品は静電気の影響を受けやすく、微細な電流が流れるだけで異常や損傷が起こる可能性があります。EPA(ESD保護区域)を設定するなど、徹底した静電気対策が必要です。
トラブル2.ダストの付着
帯電量が多くなると、ダストの付着が発生しやすくなります。埃や塵などの異物の付着は、製造現場の大きな課題の一つです。具体的には、「レンズの製造過程で埃が混入し、性能不良となる」「塗装面にダストが付着して、塗装ムラが発生する」というような問題が起こります。静電気対策の実施は、品質管理や歩留まり率にも大きな影響を及ぼします。
トラブル3.ワーク同士の付着
静電気によってワーク同士の付着が起こると、生産に障害が生じます。ここでいうワークとは、作業対象となっている仕掛品や部品のことです。静電気の影響で加工段階の素材同士が付着し、成形不良や型残り、排出ミスなどが発生します。
また、印刷加工の現場では、紙やフィルムなどの印刷対象物が帯電することで、印刷不良や紙詰まりが起きるケースがあります。ワーク同士の付着による弊害は多く、生産性向上のために静電気対策は必須となっています。
トラブル4.電子機器の誤作動
静電気の放電が起こると電磁ノイズが発生します。この電磁ノイズが原因で、電子機器が誤作動を引き起こすことがあります。エラーの発生や機器の停止、意図しない動作を行うなど、その症状は様々です。
微弱な信号で作動している機器はノイズに対する感度が高く、影響を受けやすいといわれています。装置を制御するPLCや電子天秤、ウエイトチェッカー、金属探知機などを扱う現場では、特に注意が必要です。
トラブル5.人体の帯電による放電
人体に蓄えられた静電気が放電される際、痛みや不快感を伴います。身近な現象を例に挙げると、ドアノブやエレベーターのボタンに触れた時の「パチッ」とした感覚です。人体の帯電量が増加するほど、痛みも強くなります。人体の帯電量が大きくなりやすい工場や製造現場では、放電によって強い痛みを感じるなど、事故につながるリスクがあります。
トラブル6.火災事故の発生
静電気が原因で引火や爆発が起こり、重大な火災事故に発展するケースがあります。特に、可燃性の高い物質を扱う現場では、静電気による火花放電を警戒しなければなりません。静電気の火花程度でも、付近の物質に引火するリスクがあり、もし次々に引火や爆発が起きれば、大きな火災事故になるおそれがあります。このような火災事故は実際に発生しており、徹底した静電気対策が必要です。
アースによる静電気対策の具体例を紹介
工場や製造現場では、アースによる静電気対策が欠かせません。具体的にどのような対策がとられているのか、代表例をいくつか紹介します。
リストストラップによる静電気対策
リストストラップは、人体の静電気対策に用いられます。人体の帯電を防ぎ、静電気のない状態を保つことが目的です。人体の静電気を常に逃がす(アースが取れている)構造になっているので、リストストラップを装着している限り、物体に触れても放電現象が起こりません。静電気の影響を受けない安全な状態で作業を行えます。
なお、人体は静電気の一番の発生源ともいわれており、しっかりと対策を行う必要があります。
床材やマットによる静電気対策
静電気を防止する素材でできた床材やマットを使用するのも、有効な静電気対策です。作業者や機材の帯電を防ぐだけでなく、人体や設備のアース経路としても利用できます。床材、塗料、フロアマット、塗床など、床の静電気対策の選択肢は豊富です。
床は静電気が発生しやすい場所であると同時に、汚れや劣化が生じやすい場所でもあります。人や台車の移動、椅子の摩擦などで経時劣化が起こるため、帯電防止の効果が損なわれていないか、定期的な点検とメンテナンスが必要です。
静電靴による静電気対策
静電靴とは、 静電気の帯電防止機能を備えた靴のことです。人体に溜まった静電気を、靴底全体から地面へ逃がす構造になっています。
静電靴の機能性は、製品によって様々です。静電気対策を徹底すべき現場であれば、JIS規格のJIS T8103(静電気帯電防止靴)をクリアしたものなど、信頼性の高い製品が適しています。スニーカータイプや長靴タイプのほか、埃や塵の付着を防ぐ機能付きのものなどもあり、作業環境に応じて選択できます。静電靴を専門に扱うメーカーのサービスカタログをチェックするのもおすすめです。
静電気対策でアースをとる際の注意点
アースをする際の注意点や重要なポイントを解説します。
絶縁体はアースを取っても効果が無い
アースが効果を発揮するのは、対象物が導体である場合です。導体は電気を通しやすい特性を持っているので、発生した静電気をスムーズに逃がすことができます。一方、絶縁体は電気を通しにくい特性のため、アースをしても静電気は逃げません。絶縁体の静電気対策にアースは使えないということです。
絶縁体の静電気対策には、アース以外の方法を検討する必要があります。有効な方法として、除電器(イオナイザ)での除電や導電性素材への変更、湿度管理などが挙げられます。
導体・半導体・絶縁体の違い
導体や絶縁体の違いについて、少し整理しておきましょう。世の中には、電気を通しやすい「導体」と、電気を通しにくい「絶縁体」が存在します。導体の代表例は、鉄や銅、アルミなどの金属で、絶縁体にはプラスチックやゴム、ガラスなどがあります。
また、 導体と絶縁体の中間の性質を持つものを「半導体」といい、シリコンやゲルマニウム、セレンなどがこれに当たります。
導体や絶縁体の特性をまとめると以下のようになります。
導体:電気をよく通す
絶縁体:電気を通しにくい
半導体:導体と絶縁体の中間となる性質
効果検証と定期点検が必須
アースを取ったら、効果検証と定期点検が必要です。静電気は目視できないため、「表面電位計」や「静電電位測定器」と呼ばれる専用の静電気測定器で帯電量を調べます。静電気の量を測定して数値化することで、アースの効果を検証できます。
また、静電気対策の機器やアイテムは、定期的に点検し、正常に機能しているか確認する必要があります。汚れや劣化、誤った使い方は、効果を低下させる原因になります。作業者に対して教育や訓練を行い、静電気対策に対する各自の意識を高めることも重要です。
まとめ:アースの原理や必要性を理解した上で静電気対策を
この記事では、アースの役割や必要性、静電気対策の具体例などを解説しました。工場や製造現場に静電気対策は必須であり、アースの原理や役割を正しく知っておくことはとても重要です。静電気による弊害は多く、疎かにするとトラブルの発生で現場がストップしてしまうリスクもあります。
日々の業務を安全かつ円滑に進めるために、しっかりと静電気対策に取り組みましょう。
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